Monday, June 3, 2013

日本の「既成政党」と海外の「市民政党」との違い

皆さまへ

参院選が近づいてきました。東京都の方は都議選が23日に控えています。

皆さんは候補者個人の政策や活動実績を評価して投票するか、候補者の
所属政党の理念や活動実績に共鳴して投票するか、どちらでしょうか?

最近では「維新の会」「未来の党」「生活の党」といった新党が結党され、
選挙に参加して国会でも議席を有していますが、いずれも日本の既成政党
の典型的な特徴を受け継いでいる組織ばかりです。

日本の政党や政治団体の特徴は、

1) 政策や政治信条を共有する個人の集団というより、選挙で資金集めをし、
    勝つための「互助会」的要素が強い。いわば選挙活動の必要条件
   としての組織と化している。
2)   政党組織内の政策立案機能やブレーン・スタッフが手薄である。
3) 国会議員(地方政党の場合は地方議員)で構成される中央組織、幹部会
   が決定権・運営権を掌握しており、ピラミッド型のトップダウン構造である。
4) 思想信条や個々の政策で意見が一致していないにもかかわらず、
   党議拘束が強すぎて、党員の言動が中央執行部の決定事項に少しでも
   反すれば容易に処罰される。(サラリーマン組織と同じ)
5) 支持者の承認も得ず、選挙のたびごとに党籍を移す議員が珍しくない。
6) 政党自体も党員の総意ではなく、党首や一部の幹部・議員の一存で
   離合集散を繰り返す。
7) 党の運営や各事項の決定のプロセスが透明性を欠いており、随時党首や
   中央執行部の一部の幹人間の協議で内密裡に決定する。
8) 党に大量の寄付を行った利益団体、業界の意向や要望に左右されやすくなる。
9) 党員になる人の世代や職業層、性別に偏りが大きい。
10) つねに有権者の関心を惹きつけたいため、政策もそのつどの時流に
    合わせた迎合主義に走りがちで、選挙で勝つために、時折実現できも
    しない政策公約を訴えることも意に介しない。
    
11) 議員になればバッジ特権が与えられると勘違いしている政治家が多く、
    市民を上から目線で見がち。服装もいつどこでもダークスーツにネクタイが
    主流。

といった「共通要素」を備えています。


これに対して、海外では最近日本でも知られるようになった「緑の党」「海賊党」
といった「市民政党」「草の根民主主義政党」が存在しています。

これらの政党に共通する特徴は、以下の通りです。

1) 地域や地方レベルを中心とした、政策や政治信条を共有する個人の集団
   という要素が強い。選挙や議会活動だけではなく、普段から様々な地域
   ベースのキャンペーン活動やイベント・集会を開催している。
2)   専門分野別に、政党組織内の政策立案機能やブレーン・スタッフが常駐
   しており、組織内の役割分掌が機能している。
3) 候補者は地域ごとに一般党員の中から党員大会の総意で選ばれ、
   中央執行部や幹部会はその決定に従う、逆ピラミッド型のボトムアップ
   構造である。
4) 原則党議拘束がなく、党員各自の異論や異見が尊重され、激しい議論の
   応酬もときには歓迎される。(最終的には投票で決定)
5) 議員は地域の党組織、党員や支持者に拘束されており、議員の特権や
   決定権限はない。国会議員も一般党員も対等な立場で党活動に参加。
6) 党の運営や個別的決定事項に関しては、地域・地方・全国それぞれの
   レベルに応じて、参加党員全員による「投票」の過半数以上の賛成で
   決定する。議員や一部の幹部だけで決めることはしない。
7) 議員や党員が、さまざまな政策分野にわたり、一般市民や非営利団体
   の開催するイベントやキャンペーンに参加しているため、議員・党員と
   一般市民ないしは市民団体との距離が近く、コミュニケーションが密
   である。そのため市民と党との関係が構築しやすく、特定組織の利益
   誘導によらない、一般市民の要望や意向を反映しやすい。
8) 老若男女のバランスがとれており、とりわけ若者世代や女性が多数
   党員に参加している。職業層もバラバラである。
9)  政策も目先の利益を反映させる内容ではなく、より基本的・中長期的に
   市民目線で市民の生活に必要な政策の実現を優先させ、訴えている。
   
10) 議員も一市民であることを自覚しているため、極力インフォーマルな
    
    衣服で活動する。


このように比較してみると、同じ「政党」という名前であっても、その中身は
180度「異質」の組織であることが、明確にみてとれると思います。

後者は西欧では「オルタナティブ政党」と呼称したりもします。

日本でもこの「市民政党」の試みは、80年代からスタートしたようですが、
表向きは「市民政党」でも、実質はトップダウンで中央集権型の組織であったり、
既成政党のように、選挙のたびごとに新党が結成され、終わると離合集散を
繰り返してきた結果、今の市民不在の「政治的貧困」状況に至っているようです。

そうなると、最早日本ではマトモな「市民政党」組織は育たないのでしょうか?
それには、有権者も含めて、これまでの「既成政党」のあり方を徹底的に
疑問視し、民主主義や新しい政治意識をもった人材を発掘する、あるいは
増やす教育を徹底し、育った人たちを、ひとりでも多く「政治の場」に参加
させる以外になさそうです。

筆者は、結局政党も企業やNPOと同様、組織の一種である以上は、
そのクオリティや価値の高さを決めるのは、そこに参加する個人の力量であり、
リーダー個人の才覚によるものが大きいと考えています。

日本の今現時点での政治的風景、選挙の実態を見るに、「政党」よりも「候補者
個人」を適正に評価し、真に全体の利益を考えている政治家を多く当選させる
ことが、有権者にとって、最も必要な判断行動だと思うのです。

また「政党」を評価するには、政党の「理念」「思想信条」「政策」を細かく見比べ
て判断する必要があります。
たとえば教育政策や福祉政策では共感できても、外交政策や経済政策では
「市民政党」の考える方向性とは異なるスタンスをとっているケースもありえます。
また理念は理想的な美辞麗句ばかりでも、実際彼らがやっている活動姿勢は
正反対だったりと、自己矛盾するケースも見かけます。

結局、「候補者個人」と、その「組織」全体の方向性を総合判断して、最終的に
誰に、どの政党に投票すべきかを熟慮し判断することが大切だという結論です。
インターネット時代ですから、そのためのツールはいくらでも調べれば用意されて
います。

自分の支持したい政治家はどんな人間か、支持したい政党はどういう組織か、
どういう要素をもっている政党か、十分に時間をかけて検討作業をしてみてください。 

Tuesday, March 26, 2013

ドイツ緑の党の候補者リスト選挙

 筆者は1990年に初めてドイツを訪れて以来、ドイツとは縁が切れない関係となった。最初は哲学の文献調査でドイツの各大学を回ったが、それから関連の学会や研究会に招かれたり、いろいろ交流を持つうちに、ドイツの市民運動や緑の党の運動に魅せられ、引き込まれていった。

 ドイツの緑の党大会に最初に参加したのが2002年。それからほぼドイツを訪れるたびに、緑の党主催のイベントやキャンペーン、討論会に参加してきた。ドイツ在住の日本人で緑の党員になっている人たちも何名か知っているが、私の場合は日本およびアジアの緑の運動を代表する立場で参加してきたため、この十数年間で実に多くの党員と交流でき、ひときわ厚遇を受けてきたのではないかと思っている。とりわけ最近では連邦(国)レベルではなく、ドイツの各州、各都市で活動する緑の党の活動に関心を持つようになり、数多くの地域の党員や活動家と交流を深めるようになった。 

 さて、今年2013年は、4年に1度行われるドイツの連邦議会議員選挙(国会議員選挙)の年である。投票日は9月22日(日曜日)であるが、早くも各政党は比例区・選挙区の各候補者を選出し、選挙に備えて対策を始めている。緑の党も各州ごとに連邦議会議員に出るための比例区候補者リストをつくるため、今年に入ってから州ごとの党大会で候補者を選ぶ選挙が行われている。
 
                                          緑の党ノルトライン・ヴェストファーレン州(NRW州)
                   党大会での候補者リスト当選者たち               
                  
 ドイツ緑の党の候補者選びはユニークで全員参加、民主的に運営される。候補者は中央執行部や委員会から指示され任命を受けるのではなく、全員が地方での党員選挙で選ばれる。立候補にあたっても、まずリスト1位から女性、2位には男性、3位は女性・・・というように、男女がそれぞれ入れ替わりでノミネートされる。そして立候補したい党員は、自分がリストの何位に立候補するかを選ぶ。

 比例区の場合、候補者選挙は党大会の場で、リスト1位から全員投票により即時開票され決定する。各順位のポジションごとに立候補者が全員登壇して短いスピーチを競い合い、それを聴いた党員たちが判断して投票する仕組みである。ただし投票結果の1位が過半数に達しない場合は、候補者のだれかが過半数に達するまで決選投票を繰り返す。その過程でリタイアする候補者も生じ、最終的に絞られた中で過半数の票を得た候補者が当選する。リタイアした候補者は、次の(男女別で2位下の)順位リストに繰り下がりで立候補することもできる。

 以下ではハンブルク州とベルリン州の緑の党の事例を紹介する。

   ハンブルク州では、2月24日に緑の党州大会が行われ、リスト7位までの比例区候補が即時開票され決定した。リスト1位にノミネートしたアンニャ・ハジュクAnja Hajduk、リスト2位にノミネートしたマヌエル・ザラツィンManuel Sarrazinは、圧倒多数の得票で自動的に当選を果たした。リスト3位には若年世代(ヤング・グリーン)を代表して党州共同代表で州議会議員のカタリーナ・フェゲバンクKatharina Fegebankが177票中、151票の圧倒多数を得て当選。
 
                                          リスト候補3位の演説をする、カタリーナ・フェゲバンク
                                           Katharina Fegebank  (緑の党ハンブルク州共同代表)
                                           
 
 ここまではすんなりと決まったが、リスト第4位は、マクシミリアン・ビアバウムMaximilian Bierbaumと、党州共同代表のアニェス・チャルクスAnjes Tjarks、ユズフ・ウズムグムYusuf Uzumgumの3名が激突し、ビアバウムが75票、アニェスが64票、ユズフが17票で、ビアバウムとアニャスとの決選投票となった。結果、ビアバウムが75票、アニャスが58票となり、過半数を獲得したビアバウムが当選した。

 リスト第5位は、圧倒多数でアンナ・ガリーナAnna Gallina氏が当選。先に決選投票で敗れたアニャスはリスト6位に再立候補して当選。リスト7位には元党連邦中央委員でハンブルク市議会議員のカーティア・フーゼンKatja Husenが当選した。

 
 


ベルリン州では、2月16日の緑の党州大会で、リスト5位までが決定。リスト1位に立候補した元農業・消費者大臣のレナーテ・キュナスト Renate Künast が73.9%にあたる596票を得て文句なしの当選。リスト2位にはエズカン・ムトルOezcan Mutluが418票(47.6%)、アンドレアス・オットーAndreas Otto が406票(46.2%)となったため決選投票となり、再投票でエズカンが556票(63.3%)を獲得して当選。

リスト3位には現職連邦議会議員のリサ・パウスLisa Paus、ユリア・バウアーJulia Bauerの2名が立候補したが、リサ・パウスが641票(82.6%)の圧倒多数で当選。先にリスト2位で敗れたオットーがリスト4位に再立候補し、ヤング・グリーン代表のシュテファン・ツィラー Stefan Zillarの356票(44.2%)を退けて、439票(54.5%)の過半数を獲得して当選した。
 
 

 リスト5位には、ベルリンのクロイツベルク地区議員で元ヤング・グリーン代表のパウラ・リースター Paula Riester、ニーナ・シュタール Nina Stahr、アストリッド・シュナイダー Astrid Schneiderの3名が立候補したが、パウラが移民差別撤廃政策を訴える見事なスピーチで圧倒して当選(382票、55%)を果たした。ニーナは200票(28.8%)、アストリッドは87票(12.5%)で及ばなかった。

 


 ちなみに上記以外の州でも、連邦議会議員の候補者リストのための選挙が随時実施された。なおフランクフルトやヴィースバーデンなどの大都市を抱えるヘッセン州、ミュンヘンのあるバイエルン州は連邦議会総選挙の1週間前(9月15日)に州議会議員選挙が実施されるため、州議会リスト候補者も随時選出された。こちらも私の友人たちがリスト(比例区)候補にノミネートされたり、小選挙区の候補(Direktkandidaten)に選ばれたりと、大健闘していた。立場上彼女ら、彼らを応援しないわけにはいかない。

 



 
 
 バイエルン州議会議員候補者リスト5位に選ばれた
カタリーナ・シュルツェ Katharina Schulze(23歳・ヤンググリーン出身)
 

Wednesday, March 13, 2013

台湾の環境NGO訪問記


  筆者は休暇を利用し、昨年秋の数日間(111日~4日)、台湾の環境保護・自然エネルギー普及活動についてヒアリングするため、2年ぶりに台湾に赴いた。今回は首都・台北だけでなく、知人の住む第二の都市・高雄(Kaohsiung)を初訪問、現地の環境活動家らと交流することができた。

  初日には、知人弁護士の働く環境NGO「台灣蠻野心足生態協会」(Wild at Heart Taiwan)を訪問。同団体は、環境法に詳しい弁護士たちを中心に、野生生物保護や森林・海洋生態系保護、先住民人権保護や公害防止運動などのテーマで、数多くの署名活動やキャンペーンを展開してきた。福島原発事故以降は全国的な「脱原発」運動にも積極的に参加している。同団体事務局では、担当の弁護士やインターンの大学生と対峙し、日本のNGOや市民運動、再生可能エネルギー事情について質疑応答を行った。また同団体の事務局の入っているビルの屋上では、屋上緑化庭園や肥料のコンポストや再利用、湿地実験場やソーラーハウス、雨水再利用装置が作られており、詳しいガイド付きで見学することができた。
 
 
 

 続いて筆者は長年懇意に交流を続けている「台湾緑の党」(Green Party Taiwan)の全国事務局を訪問した。昨年の国政選挙で約23万票を獲得し、全国第5党の座を確立した台湾緑の党は、環境NGO活動に関わる若いメンバーらが交替で幹事を切り盛りしてきた、まさにフレッシュな「NGO政党」である。現在の共同代表は、フェアトレード・コーヒーを扱う会社で働く、若き女性である。反原発運動からスタートした同党であるが、最近ではパーマカルチャーや有機農業、食育やスローフード、ベジタリアン普及運動など「持続可能なライフスタイル」をテーマに、関連分野のNGOや市民団体との交流を拡げている。

 
 
台湾の脱原発運動

  台湾は現在、国内で4つの原発(計6基、2基建設中)を抱えているが、総生産電力は全体の16.85%に過ぎない。その他は石炭火力発電が約50%、天然ガスが24.61%、水力発電が約3%となっている。世界原子力協会(WNA)のランキングによれば、世界中の全原発のうち最も危険とされる14発電所の中に台湾の4つの原子力発電所がすべて含まれている。台湾の原発集中地域から80km圏内に1000万人が在住し、30km圏内でも650万人が在住している。使用済み核燃料タンクはすでに96万個に達し、7500本の使用済み核燃料棒の最終処分場を巡って賛否の議論が続いている。

 こうした背景を踏まえて、台湾の脱原発運動の歴史は古い。最後に建設された第四原発は、以前の民進党政権が国民投票で是非を決定するという約束を反故にした際にいったん沈静化したが、稼働テストに際してトラブルが相次ぐ中、福島の原発事故が起き、再び「脱原発」世論が沸騰した。これらの動きを受けて、台湾の馬政権は20125月には現在稼働中の6基の原子炉を順次廃炉にしてゆき、原発の新設はしない方針を決めた。第四原発は現在もストップしたままである。そしてこの背景には、市民運動やNGOによる大きな世論への働きかけがあったことは言うまでもない。

 台湾の「脱原発」ムーブメントは、台湾のいくつものNGO団体のネットワークで開催されている。中でも若者をターゲットにした運動を展開しているのが、メンバーも皆若い環境NGO「台湾緑色公民行動連盟」(GCAA)である。事務局長の崔愫欣(Tsui Shu-Hshin)氏は、反核を描いたドキュメンタリー映画監督としても知られ、日本の脱原発運動にも何度も取材に訪れるなど、活発な活動を展開している。

  私が彼女と会ったのは今回で4度目であるが、多忙中にも関わらず、団体が主催して成功を収めているユニークな脱原発キャンペーン内容について丁寧に説明してくれた。同団体を中心に台湾全国規模で脱原発運動が盛り上がりを見せている背景には、彼らのさまざまなキャンペーン戦術があった。たとえば若手の芸術家やデザイナーたちを巻き込み、脱原発の絵を描いてもらい、それをリーフレットとして販売・宣伝する代わりに寄付を募るというキャンペーンを展開していた。また若者が頻繁に使用するネットツールを活用し、自分の携帯番号を共通のアドレスに登録すれば、その日の脱原発イベントやキャンペーンの情報がリアルタイムで流れる仕組みや、「脱原発」をデザインしたオリジナルな旗やエコバッグ、ステッカーやバッジ、プラカードやポスターなどを次々と制作し、大学生や若い人々に購入を呼びかけていた。脱原発イベントでは必ず若者に人気のあるアーティスト、音楽家や俳優を呼び込んでコンサートでアピールするなど、ネットツールを駆使した彼らのキャンペーンは、またたく間に台湾の多くの若者たちのデモやキャンペーンへの関心や継続参加を担保させることに成功した。
 
 
 
  さらに同NGOはこの時期、2カ月間の間、「反核」をテーマにした映画を電気街の一角で主催上映していた。私が当日晩に友人の誘いで観に行った上映会では、ちょうど福島事故をめぐって東電や政府の対応を取材した、ドイツ人監督によるドキュメンタリー映画が上映された。会場は10代、20代の若者が大半でごった返していた。日本にも、このような若者たち自身の主導によるさまざまな自主企画やキャンペーン戦術があれば、若い世代にも脱原発ムーブメントが浸透したに違いない。

 
 
 

台湾の自然エネルギー普及活動

   台湾では2009年に政府により「再生可能エネルギー開発法(Renewable Energy Development Act REDA)」が制定され、2025年には全電力生産量のうちの再生可能エネルギーのシェアを16%とする目標が定められ、2010年には日本でも20127月に導入された「再生可能エネルギー固定価格買取制度(フィード・イン・タリフ)」が導入された。それ以降、政府や大企業主導で太陽光発電と風力発電の普及にテコ入れがなされている。翌2011年3月には風力発電の固定買取価格を改定(洋上で33%、陸上で10%買取価格を上乗せ)した。

   しかし、今回のさまざまな取材活動では、これらの動きに対する環境保護団体の見方が総じて否定的であることもまた判明した。とりわけ風力発電については、台湾のリゾート地である澎湖諸島の近隣酪農家から、風力発電機による夜間の低周波騒音のせいで、飼っていた山羊が400匹死亡したという訴えがあったり、この十数年間、台湾での洋上風力発電経営に取り組んできたのは国内企業ではなく外資系(ドイツ)のインフラベスト(InfraVest)社であるうえ、発電所設置場所が天然記念物である白海豚の生息地が付近にあったため、野生生物の保護を訴える地域の環境保護団体から反対の声が上がるなど、環境保護と自然エネルギー普及とは釣り合わないという意見を述べるNGOや活動家が多かった。彼らの大半はエネルギー無駄遣いをなくすための省エネをもっぱら訴える主張に固執していたことも残念であった。

 そんな中、私は知人の通訳ガイドの紹介で、台北市内の青年公園にあるソーラーハウス(Solar LEO House)に案内された。公園内にある公共図書館を併設したソーラー展示館であり、現在はドイツと台湾のNGOが共同運営している。この展示館はソーラーパネルを敷き詰めた屋根と、大きな自然採光窓を取り入れたパッシブハウスを組み合わせたものであり、建材も断熱効果のある天然の隔熱材や木質繊維、天然塗料が使用され、必要最小限の電力で賄える仕組みになっている。このソーラーハウスの管理責任を担う胡湘玲(Hu Shiang-Ling)博士は、ドイツでソーラーエネルギーの研鑽を重ね、台湾に帰国後、ソーラー技術やソーラーハウス建設の普及啓発活動に務めている第一人者である。訪問した記念に、私は彼女から世界のソーラー発電の可能性について絵図入りで詳しく紹介したカタログ仕様の著書を数冊いただいた。彼女は台湾の環境専門畑でも、再生可能エネルギーの普及可能性に信念をもって取り組んでいる数少ない活動家・研究者であった。

 
 
 
高雄の環境NGO訪問

  初めて乗車した台湾新幹線は仕様も装丁も日本の新幹線車両と同じで、乗り心地もほとんど同じであった。台北から高雄には最速1時間半であっと言う間に到着。高雄市内は台北と異なり、車の通りも少なく渋滞もほとんど見られない。また港湾都市だけあって湿気がひときわ感じられ、明らかに亜熱帯気候の町に来たかのような実感を覚えた。

  筆者は現地に住む知人の大学教授の案内で、教授の研究仲間とともに市内にある公園の湿地を見学、その後しばらく市内サイクリングを楽しんだ。湾岸沿いのビーチには中国本土を初め、多くの団体観光客が訪れていた。高雄市ではパリのヴェリブのようなレンタサイクル・ステーションや自転車道が町中の各所に整備されており、プリペイドカード(公共交通機関と共通)があれば自由に借り、乗り捨てられる仕組みになっていた。また都心部にはいくつもの湿地が市の管理の下で整備されており、野鳥や熱帯植物の宝庫と化していた。
 
 
 

 その晩筆者は、昨年設立されたという「台湾緑の党高雄支部」のメンバーたちと、ベジタリアン・レストランで会合後、支部代表の自宅で会合に招待された。私が驚いたのは、台湾にはベジタリアンが多く、ベジタリアンの専門ショップや専門レストランチェーンが随所に存在していることだ。私が今回台湾で出会った数十人の環境活動家の中でも、3人に1人はベジタリアンであった。緑の党高雄支部のメンバーの多くは大学や高校の教員や研究者が多く、約30名ほどで構成されている。彼らの多くは高雄を拠点とする環境NGO「地球公民基金会」(Citizen of the Earth)のメンバーでもあった。同団体は、2つの大手環境NGOが合併して2011年に設立されたNGOで、工業都市高雄の大気汚染問題、水質汚染、生活環境保護や地球温暖化対策としての化石燃料の低減を訴えることをメインテーマに、地域密着型のキャンペーンや署名活動を続けている。また福島原発事故以降は、台湾国内の原発の稼働中止を訴える全国キャンペーンにも協働し、高雄地域の「脱原発」運動の主催者となっている。


 高雄、西子湾にて(筆者)


 短い数日間ではあったが、数年前に訪れた時と同様、台湾の環境活動メンバーは誰も皆親切で好意的であり、生き生きと信念をもって自らの活動に邁進していたことが印象的であった。

 
【参考】

台灣蠻野心足生態協会(Wild at Hearthttp://zh.wildatheart.org.tw/

台湾緑色公民行動連盟(Green Citizen Action Alliance)  http://www.gcaa.org.tw/

台湾地球公民基金会(Citizen of the Earth)  http://www.cet-taiwan.org/

台湾ドイツ汗得文化協会(Hand.e.V http://www.hand.org.tw/

台湾緑の党 (Green Party Taiwan)  http://www.greenparty.org.tw/